R-plus+ #08 

Rist staff interview #08 中本陵介 〜研究者として、PdMとして目指す理想像に迫るインタビュー 〜

中本 陵介 2020年4月 中途入社
大阪大学 卒業
広島大学大学院 修士
京都大学大学院 情報研究科 博士後期課程在学中

大学卒業後、新卒入社した企業で海外営業を担当。その後、大学/研究機関での研究国際交流業務、教育系データサイエンス業務を担当したのち、AIエンジニアとしてRistへ入社。Kaggle Expertの称号を取得。
現在は外観検査ツールRPipe-Imageプロダクトマネージャー(以下、PdM)として活躍している。

今回はプロダクトチームでPdMとして活躍されており、これまでのご経験も興味深い中本さんにお話を伺います。
ではまず、AI業界に興味を持った理由とRistに入社した理由を教えてください。

中本:新卒で入社した会社で、カメラを使った自動走行や自動車制御、カーナビなどの海外営業に関わっており、元々画像AIに興味を持っていました。
また、前職では教育心理系のデータ分析業務(多変量解析、因果推論など)を担当しており、働きながらデータサイエンティストを目指して広島大学大学院(博士前期)に通っていました。その中でRistを知り、社会にイノベーションを起こせる会社だと思い、思い切って応募しました。当時、エンジニアとしては未熟な状態でしたが、これまでの海外営業やデータサイエンスに関わってきた経歴に興味を持っていただき、入社に至りました。

Ristにおけるご自身の仕事の役割を教えてください。

中本:AIエンジニアとして入社しましたが、2022年4月よりAIエンジニアと自社製品RPipe-ImageのPdMを兼任、2022年8月からはPdMを担当しています。
入社時に、いずれはエンジニアよりももう少し上流の部分も担当してほしいという話があり、今年の4月にPdMとしてプロダクトマネジメントをやってみないかと会社から提案を受けたんです。最初はもう少しエンジニアをやりたいなと言う想いもありましたが、求められている時にチェンジするのも悪くないかなと思い受託しました。英語では天職をCallingと言いますが、神から導かれていると言う意味ですね。まさに呼ばれているのであれば、断らないでおこうかなと思い職種チェンジしました。
AIエンジニアとしては、工場から出る排水の水質検査システムのプロジェクトに入ることが多かったですが、一方で他のプロジェクトで作り上げた技術を別のプロジェクトにおいて現場に落とし込む方法を考えるプロジェクトマネジメントの部分にも関わっていました。
ですので、そういう意味では製品の技術的側面以外に、製品の企画・開発・販売・改善といった全ての活動に関わるPdMへの移行はスムーズでした。

一般的なPdMは、市場から上がってきたニーズや社会に必要とされていることを汲み取り、その課題を解決するプロダクトの開発を行います。
ですがRistのPdMは若干異なり、Ristの持つ技術力や強みを生かしつつ、社会で必要とされるものを提供するというところです。社会の課題を解決するためのプロダクトを販売するという側面もありますが、Ristがこれまで培ってきたものをプロダクト化して世間に提供するという特色を強く出しているので、一般的なPdMとは少し違うかなというところがあります。
また、RistのPdMは、スケジュールに沿って作るだけではなく、 どういったアルゴリズムを乗せていくかとか、 最新のもので精度が1番高いものを作っていくというところも大事にしています。マニュアルがなく新しい仕事ではありますが、培ってきた経験をもとに試行錯誤する力も求められる分、非常に面白いです。

PdMとして営業と一緒にお客様のところへ訪問することもあります。Ristは会社が小さいのでPdMと言いながら、PdM、プリセールス、テックリード、 PMを一人でこなします。役割ごとに担当が分かれているのが一般的ですが、その場合、どこかで齟齬があったり、対立したりという問題も発生します。ですが、Ristでは全て一人で行なっているので、誰かと揉めることもなく、対立といえば自分の中の葛藤だけです。その方がやりやすいです。
なんといってもスピードが速く、僕だけで解決できないことはすぐに役員に相談して翌日決裁になるケースもあります。大きな企業であれば1、2週間かかることが 1日で解決できるので、それがベンチャーのPdMの魅力の一つだと思います。

エンジニアやKaggleメンバーの力がそのまま製品の力になる

PdMの仕事において意識していることはありますか?

中本:1番はエンジニアたちの力を最大限に生かすにはどうするかというのをテーマにしています。Ristのエンジニアは高い技術力があって、世界でトップクラスのKagglerもいます。エンジニアやKagglerのメンバーの力がそのまま製品の力になると思っているので、メンバーの力を存分に発揮するにはどうすればいいかということを常に頭に置いています。
具体的には、お客様にAIや製品を提供する時、できるだけ使いやすいように加工した状態でお渡ししようと試みますが、その辺の加工をどこまでするか、出来るだけその(製品の)素材を生かした形で提供するようにしたりとかですね。

では、Ristで働いている中でどういう時に楽しいと感じますか?

中本:自分で提案したことがどんどん進んでいく時。新しい技術に携われる時です。例えば、お客様のところに訪問してお客様から課題をお伺いした瞬間に、このモデルで行こうって自分の中で大体決まるんですよ。普通ならその承認プロセスがあると思いますが、その場で自分で決めて翌日には画像集めてモデル作って、というのができます。 提案したことを自分でできるというのはありがたいです。
新しい技術というのは、RistはKaggle Grandmaster、Kaggle Masterが多く在籍しているので、世界で1番の解法が当たり前のように社内で公開されています。その解法を参考に見たり、Kaggleチームのメンバーが作ったモデルを使って実装できるのが非常に面白いです。

Ristの好きなところはどこですか?

中本:フラットなところです。組織上は上司部下が存在するものの、実際のプロジェクトの中では意識することがなく、Ristのプロジェクトとしてのミッションである「お客様に1番いいものを提供する」が統一されていてることが根本としてあり、さらにお互いのことを尊重し合ってるので、問題があったとしてもメンバー同士で話し合ってほとんどのことは解消できるところが非常にいいところだと思います。他には、社員の希望ややりたいことを最大限尊重してくれるところです。このような会社は今までなかったですね。

Ristに必要なのはどういう人材だと思いますか?

中本:自分で課題/問題を定義できる人です。どの職種でも課題は山積みで、その課題に対して問題を定義して、自分なりのソリューションを提案する。提案内容が採用されるかどうかは置いておいて、一人称で働ける方が必要だと思いますし、Ristはそういう人が多くてびっくりします。

中本さんは「博士課程進学支援制度」を利用されていますよね。「博士課程進学支援制度」について教えてください。

中本:博士課程進学支援制度」を利用して、2021年の4月から京都大学の博士課程に進学しています。
仕事の20%までを大学院の博士課程での研究に使って良いことになっています。仕事が忙しい時は難しいですが、隙間時間や、論文の締め切りに追われている時は存分に活用しています。Ristの就業時間中に、大学の研究室の会議にも出られるのは非常にありがたいです。

また、博士課程進学後に論文を作成し、国際会議へ2本(掲載済)、国際ジャーナルへ2本(査読中)投稿しました(2023年1月現在)。内容は、ラーニングアナリティクス、一般的に知られている名前としてはITS(Intelligent Tutoring System)と言われる教育エージェントの研究/開発の分野になります。自然言語処理やデータサイエンスなどの情報工学、認知心理学などの分野にまたがる学際的な研究領域です。今年度中にさらに2〜3本国際ジャーナルへの論文投稿を目指しています。

Ristに入社する時から「博士課程進学支援制度」があることはご存じだったんですか?

中本:いえ、入社後にメンバーからこんな制度があるというのを聞いて初めて知りました。広島大学の頃にしていた研究に心残りがあって、制度のあるなしに関わらず、Ristに入る前から京都大学の大学院には行くつもりでした。
研究内容は業界としてはニッチな部分なんですが、それでもいいからそのTop of Topみたいなものを目指してみたかったんです。
京都大学ではRistで学んだことを活かし、Ristでは京都大学の研究室で学んだことを取り入れています。それは、固有の技術とかではなく、エンジニアとしてのエッセンスだったり、研究者としてのお作法(先行研究、仮説、検証)だったり、という意味です。

僕の研究室には、教授がいて、助教、講師、研究員、博士がいて、修士がいます。なので博士号を持っている人がほとんどなんです。社会一般からすると博士号を取ることはすごく大変なんですが、博士号をとって当たり前の雰囲気が、早く追いつかないといけないという気持ちにさせてくれます。
あと、NEDOという国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構のプロジェクトにも採択されており、研究環境は非常に恵まれています。

研究をしていて楽しいと感じる時はどんな時ですか?

中本:論文が掲載された時はもちろん嬉しいんですが、それよりも論文が書き上がった時が一番嬉しいです。また、自然言語処理を組み込んだ専用アプリを自分で実装しているので、それが実際に現場などで使われているのを見ると嬉しいです。RistはBtoBですが、研究室で開発しているプロダクトはBtoCなので利用者からフィードバックが結構返ってくるところも面白いです。

論文は仕事終わりに書かれているんですか?

中本:最近は平日の仕事終わりはあまりできないので、休日や長期休暇にまとめてしています。
平日は確かに全然やる時間がないですね。どうやってやってんだろ。すごく不思議です、自分でも。

(笑)仕事して、大学院で研究して論文書いていらっしゃるんですよね。時間のやりくり論を聞きたいです。

中本:多分引かれますよね。昭和のサラリーマンかって。朝7時に起床、家のことをして出社の日は8時半に家を出て17時に帰宅。在宅の日は17時半くらいに一旦仕事を終えて20時半から22時までまたRistの仕事をして、22時から24時まで論文を書いたりしています。
24時になったらパソコンを閉じて布団に入った瞬間に寝てます。なので7時間は寝れています。
休日も7時に起きて、大体研究をしています。

ゆっくり休む時間とか、テレビを見たり趣味に費やす時間が全くないですね。

中本:自分の好きなものや趣味に費やす時間はないですね。でも、プライベートで何かしたいことがあるというより、早く博士号を取りたいので今は研究が趣味のようになっています。

なるほど。時期によって変わる趣味、という考え方はなんだか新鮮ですね。
仮にもっと時間があれば再開したい趣味はありますか?

中本:昔は趣味で馬術をしていたので、落ち着いたらまた始めたいなとは思っています。

馬術ですか。

中本:前職で大学で働いていた時に馬術部の顧問をやっていて、最初は顧問として引率していただけなんですけど、乗ってみないかと誘われて始めてみると面白くて、そのまま大会にも出場しました。
馬術って心技一体みたいな人馬一体というのがあって、精神的に鍛えられるというか、自然を知るということはどういうことかといったことを学ぶ座学でもあります。
馬も生き物なので、日によって体調が変わるんですよね。生き物に対して自分がどう変化するかということなど、そういう技術を争う紳士競技です。自分ではコントロールできないことをどうコントロールするかということの重要さを学ぶみたいなのが馬術にはありますね。今でもうまくいかないこと、歯を食いしばらないといけないことは日常の仕事や研究でもあります。馬術で培われた忍耐力みたいなのは役に立っているかもしれません。

あとは海外旅行に行きたいですね。40ヵ国を留学/旅行で訪れたことがあります。中南米、北アメリカ、オセアニア、アフリカ大陸、ユーラシア大陸を制覇しました。
その中でもメキシコとペルーは、人が温かくて国民性が出ていて、とっても好きなんです。また必ず訪れたい場所です。

学生時代、留学/旅行でメキシコを訪れた時の写真。

ホストファミリーとの1枚
留学先のメキシコの友人との1枚
ペルー留学でボランティアをしていた時の1枚

大学では外国語学部を選ばれていたり、新卒では海外営業をされていましたが、外国語や海外を好きになったきっかけはなんですか?

中本:昔、杉原千畝に憧れて外交官になるのが夢だったんです。留学は、英語圏はカナダ、スペイン語圏はメキシコとペルーに行きました。全部で1年間くらいでカナダ6ヶ月、メキシコ3ヶ月、ペルー3ヶ月、台湾1ヶ月くらいです。英語とスペイン語は教員免許を持っています。中国語検定4級も持っていて、簡単な日常会話くらいならできます。
前職ではイギリスに1ヶ月半程度調査留学を行いました。ロンドン大学において調査研究をしつつロンドン大学の学部の授業を受けていました。

新しいことを学ぶことはそこまで苦にならない

資格を多く持たれていたり、今まで色々なことをされていますが、元々勉強がお好きなんですか?

中本:いえ、好きではないです(笑)これはどういう方向に行くかというのをもがいている証拠ですね。
結構業界を変えてきているので、そのチェンジの時にはそれ相応の勉強を短期集中で行い、必要な技術を絶えず習得してきました。
私自身、海外に精通しており、グローバル化が叫ばれる時代だったので、新卒では民間の企業での海外営業職を選びましたが、10年も経つと英語ができることはただのツールでしかなくて、それ単体では、次の時代にはアドバンテージにならないと思ったんです。ジョブ型雇用が主流になってきていて、その中で生きていくには複数の専門性(例えば、英語 × 研究力 × エンジニアリング技術)を持って、市場における希少性をあげないと生きていけないなと思って、データサイエンティストを目指しました。プログラミングは広島大学に入る前に独学で始め、前職では実務でもRやPythonなどを使ってデータサイエンスをしていました。画像系のAIエンジニアリングはRistに入ってからなので、全く違う分野に来た感じですね。勉強しながら、実務で鍛えていき、最終的にはKaggle Expertの称号も取りました。社内のメンバーにはいろいろ教えてもらい、Ristだからここまで来れたと思っています。その中で社内での異動とかもあって、画像系のAIエンジニアをしていて気付いたら今のPdMになっていたという形ですね。

業界を変えるのって結構エネルギー使うじゃないですか。それができるのがすごいです。研究熱心なところや、エネルギッシュな部分が評価されてたり、色々な業界を見てきてるからこそ、上流のところも見てほしいというのがおそらくあったんじゃないでしょうか?

中本:そういう風に捉えていただけるとすごい嬉しいです。新しいことを学ぶことはそこまで苦にならないですし、まあ基本はなんでもやりますスタンスなので、それが受けたのかもしれないですね。そのスタンスは今も守っているつもりです。

新しいことといえば、中本さんはKaggleコンペに挑戦されてKaggle Expertの称号を獲得されましたよね。その時のこともお伺いできればと思います。そもそも、コンペに参加しようと思われたきっかけはあったのでしょうか?

中本:参加理由の一つは、プロダクトマネージャーとしての評価に限らず、エンジニアとしての力を示す指標としてKaggle Expertに昇格したいという想いがあったからです。

コンペで難しかった点や苦労された点はありましたか?

中本:今回は小学生のエッセイを分析するコンペで、内容を理解してやるべきことを明確化するまでは難しくなかったです。ただ、シンプルな課題だからこそ、いかに分析モデルの精度を上げていくか、試行錯誤することに苦労しました。
Ristの社員チームで参加して銀メダルでしたが、Ristには数々のコンペで金メダルを獲得している個人やチームがたくさんいるので、当時盛大には喜んでいなかったと思います(笑)

(コンペに関する詳細はこちら

銀メダルもすごい記録ですが、そもそも周りの方のレベルが非常に高いですね……。今後もKaggleコンペは参加される予定ですか?

中本:Kaggleは機会があれば参加したいなと思っています。Kaggleの知見は研究へ応用できる要素もあり、研究関連で新しいAIモデルを構築する際にKaggleの事例を参考にすることもあります。

では、今後チャレンジしたいことを教えてください。

中本:RistのPdMとしては、Ristの代表となる製品を市場に提供し、その評価をまずは得ることです。まだ投入して5ヶ月ほどですがお客様からたくさんの評価をいただいています。そのフィードバックを元に、今後外観検査AI市場に大きな影響を与えられるような製品に飛躍させたいと思っています。
研究面では、インパクトファクター(各分野における文献の影響度)が高い国際ジャーナルに論文を投稿することです。京都大学を卒業するためには国際ジャーナルに最低でも論文が3本載る必要があります。1本出すのも大変なのですが、掲載に採用される確率が20%を切っていて、出してもなかなか載るのは難しいです。すでに2本出したのであと1本で、今出してる2本は査読中です。当面はもうこのことしか頭にないです。

最後にRistと社会でどういうことを期待しているかを教えてください。

中本:最近、お客様のAIに対する認知が増えてきたので、AIが万能でないということは結構理解されてきました。とは言えやはり、AIに関する知識やどういうふうに動いているのかを理解するという段階から活用できるというフェーズまではまだ至ってないんです。
AIモデルを簡単に自社で作れる、つまり活用できるフェーズになってくると、もっともっと「AI」というものが爆発的に普及していくと思います。
少なくとも、製造業や検査機メーカーなどで、削減するべき時間や工数をAIで解決していってほしいなと思います。
Ristには難しいモデルの構造を知らなくても、自社で簡単に新しいモデルを試せるツール「RPipe-Image」がありますので、 実際に自分達で手を動かしてAIを導入したい段階になった時にRistを活用してもらえるといいなという風に思います。