論文掲載|CT画像における骨盤領域自動輪郭描出を目的としたCNNベースのセグメンテーションソフトウェアの開発について

国立大学法人 京都大学(以下、京都大学)と株式会社Rist(以下、Rist)の共同研究グループは、CT(コンピュータ断層撮影)画像における男性の骨盤領域の自動輪郭描出を目的とした畳み込みニューラルネットワーク(CNN)ベースのセグメンテーションソフトウェアを開発し、放射線腫瘍医が手動で描出した輪郭と同程度の描出精度であることを実証しました。 

また、本研究に関する論文が医学雑誌「Radiation Oncology」に掲載されたことをお知らせいたします。

研究の背景

高精度放射線治療の一つである強度変調放射線治療(IMRT)は腫瘍に対して高い線量を照射しつつ、腫瘍周囲の正常組織への線量を低減することが可能です。IMRTを実施するためには、CTスキャン、CT画像のセグメンテーション(輪郭描出)、治療計画、患者個別の品質保証、および治療の5つのステップで構成されます。上記の工程の中でもCT画像の輪郭描出は、腫瘍と正常組織の境界を区別するため重要な役割を果たします。
従来、CT画像の輪郭描出は、医師1人当たり1日4、5件程度、手動で行っていました 。特にIMRTを実施する場合は輪郭描出する臓器の数が多く、手動による輪郭描出は時間と手間がかかるため医師の負担が大きいことが課題でした。また、経験豊富な医師と若手医師で輪郭描出がばらつき、その結果、照射範囲が変動することも課題です。

前立腺癌のIMRTは多くの施設で実施されており、男性骨盤領域の輪郭を描出する必要があります。しかし、男性の骨盤領域における輪郭描出結果は他の領域に比べて精度がばらつきやすくなります。
その要因として、前記した医師の経験の違いに加え、CT画像では臓器のコントラストが低く、前立腺、精嚢、直腸、膀胱の周囲の境界がはっきりと見えないことが挙げられます。

このような状況を受け、私たちは、輪郭描出の負担軽減と描出精度を担保するために、近年急速に発展しているCNNを利用し、男性の骨盤領域を対象としたCT画像におけるセグメンテーションソフトウェアの開発を行いました。

本研究の内容と成果

本研究では、京都大学医学部附属病院で放射線腫瘍医または医学物理士によって手動で輪郭描出された470名の前立腺癌患者のCT画像をもとに、CNNベースの輪郭描出アルゴリズムにて学習させることにより、前立腺、精嚢、直腸、膀胱の輪郭を自動で描出するソフトウェアを開発しました。

本研究における輪郭描出精度は,放射線腫瘍医が手動で描出した輪郭と同程度の描出精度であることを実証しました。
特に精嚢などの小さな臓器の場合、他の研究に比べて高い輪郭描出精度を得ることができ、CNNベースの輪郭描出アルゴリズムを利用することの有効性を実証しました。
放射線腫瘍医による男性骨盤領域の輪郭描出には、30分~1時間程度の時間がかかりましたが、開発したセグメンテーションソフトウェアを用いることで、患者一人あたり1分程度で輪郭描出が可能となり、大幅に時間短縮をすることができました。
本研究で開発したセグメンテーションソフトウェアは複数のデータセットでも同様の結果が得られたことから、汎用的に利用可能であることも示しました。
本研究成果より、CNNベースのセグメンテーションソフトウェアは、輪郭描出者に依らず描出精度を担保し、輪郭描出時間の短縮が期待されます。

Ristは、今後もAIを活用した取り組みにより、社会課題の解決に貢献して参ります。

掲載論文

論文名
Development of in-house fully residual deep convolutional neural network-based segmentation software for the male pelvic CT

著者・所属
・国立大学法人 京都大学
 Hideaki Hirashima
 Mitsuhiro Nakamura
 Takashi Mizowaki

・株式会社Rist
 Pascal Baillehache
 Yusuke Fujimoto
 Shota Nakagawa
 Yusuke Saruya 
 Tatsumasa Kabasawa

掲載誌
Radiation Oncology (2021年7月22日付)

掲載ページURL
https://ro-journal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13014-021-01867-6

出版元:BioMed Central Ltd

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