R-plus+ #12 

前澤 峰雪 2023年10月 入社
長岡技術科学大学 工学部(機械システム工学専攻) 卒業
電気通信大学 工学部 博士課程修了

■プロフィール
研究職として20年以上、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)や非線形超音波(特に音響流)などの医療応用の研究開発に従事した後、CTOシンクタンクとして技術戦略統括を担当。
その後2年間、自然言語AIシステム開発のマネージャーを経験し、ヘルスケア・ライフサイエンス領域における自然言語AIを活用したプロダクト開発に取り組む。
Rist入社後は、プロダクト統括マネージャーとして、プロダクトの開発・販売戦略を担当。

今回は、2023年10月にRistに入社され、プロダクト開発部/プロダクト統括マネージャーとしてご活躍いただいている前澤さんにインタビューしたいと思います!

では最初に、前澤さんがRistのことを知った経緯と、興味を持ったきっかけを教えてください。

前澤:「AIに関わる仕事で、プロダクトマネジメントの経験を活かせる環境」「仕事と家庭のバランスが取りやすく、リモート勤務が多くてもOKな会社」を条件に転職先を探していた時、Ristのことを知りました。京都大学の出身者が多いことや、Kaggle Grandmaster・Kaggle Masterの方が多数在籍されていて、「なんてワクワクする会社なんだろう!」と興味を持ちました。

※Kaggle:企業や団体からコンペティション形式で出題された課題に対し、Kagglerと呼ばれるKaggleに登録するユーザーたちが分析モデルの精度を競う世界最大級のデータ分析プラットフォーム。

たしかに、Kaggle Master以上の方が多数在籍していることをきっかけに、Ristに興味を持ってくれる方は多いですね。
そこからRistへ入社を決めた理由は何ですか?

前澤Ristでは難しいことにチャレンジできる可能性を感じたからです。
個人的に、AIはこれからマルチモーダルの時代になると考えています。なので、自然言語AI・画像AIなどでAIを区別するのではなく、データを統合・融合して総合的に判断したり生成できるAIを開発してみたいと考えています。自分でもハードルの高い野望だなって思いますけど、RistにはKagglerや優秀なエンジニアの人たちがたくさんいるので、そうした難しい課題も解決することができるのでは?という可能性を感じました。

あと、私は長い間研究者だったので、ぽわっとしているものを具現化していくプロセスをとることが好きなんですが、Ristにもそうした思考回路を持っている人が多くて私の考え方とも合うんじゃないかな?と思ったんです。難しい問題に対して、答えを探す道のりを楽しめる人って言うんですかね。

たしかに、Ristには難しい課題ほど楽しめる人が多いと思います。

では、前澤さんの今の仕事内容を教えてください。

前澤現在、Ristには「Deep Counter」「RPipe-Image」「LandingLens」の3つのプロダクトがありますが、それらのプロダクトの販売戦略や開発方針を決めるにあたっての全体統括をしています。
各プロダクトにはリーダーやセールス担当者がいるので、その方たちと連携を取りながら、プロダクトをどのように広めていくか日々試行錯誤しています。

前職でもプロダクト開発の仕事に従事されていたんですか?

前澤はい。プロダクトの開発マネージャーとして、自然言語AIを使ったシステムをいくつか世に送り出してきました。
ただ、経験年数でいくと研究職が20年以上、プロダクトを含むマネージャー経験は12年くらいなので、
研究者としての人生の方が長いですね。

研究者は自分を信じること、ピープルマネジメントは相手を信じること

研究職とマネジメント職の両方を経験されている前澤さんですが、それぞれの仕事において大変な時の乗り越え方を教えてください。

前澤:まず、研究者として技術を扱う大変さと、マネージャーとしてピープルマネジメントをする大変さは全然違います。
技術を扱う時の大変さは、自分の知恵、発想力、根性でなんとかなるし、突破口があると信じて論文を読んだり実験したりしながら、解決ポイントがないかを突き詰めていく。
で、疲れたら食べて寝る。(笑)要するに、自分を信じて一生懸命やってみて、違うと思ったら方向転換する、という乗り越え方ですね。
一方で、ピープルマネジメントは「相手」がいることなので、まず相手の話を聞くことを大事にしています。相手がどんなふうに思っていて、本当の問題はどこにあるのか。相手の話の真意を見つけようとしています。

そして、ここは研究もピープルマネジメントも同じですが「信じること」が大事だと考えています。
研究では自分を信じること、ピープルマネジメントでは自分が真摯に向き合えば相手も返してくれると信じること、です。

たしかにピープルマネジメントにおいて、相手との信頼関係は大事ですね。
前澤さんが、チームのメンバーとのコミュニケーションにおいて気をつけていることはありますか?

前澤:今は私がマネージャーで、その下にリーダーやエンジニアがいるというチーム体系なので、私が直接言うとエンジニアが困る、あるいは重圧を感じるかもと思ったことは直接言わないようにしています。リーダーを通じて伝えることと、自分が直接伝えることは分けて考えていますね。
一方で、エンジニアの皆さんから私に対しては直接いろんな意見を言ってほしいなと思っているので、言いたいことは言っていいんだよ、っていう雰囲気を一生懸命伝えることを心がけています。

チームマネジメントにおいて気遣いされている部分や相手の意思を尊重されている部分を感じますが、自分が決める部分とメンバーが決める部分をどのように線引きしていますか?

前澤:チームとして、右か左かの方向性は自分が決めるべきだと考えています。
それで、例えば右を選んだ場合、そこには電車で行くか?徒歩で行くか?の部分はあなたが考えていいんだよ、という雰囲気をメンバーに伝えたいですね。

                                                 

仕事と家庭を両立しながら、やりたいことは工夫して乗り越えた

前職で自然言語AIのプロダクト開発を経験されている前澤さんですが、自然言語AIとの出会いはいつでしたか?

前澤:最初の会社でCTOシンクタンクとして技術戦略のプロジェクトを進行していた時、最新技術の論文調査やスクリーニング作業にたくさんの人と時間を費やしていたので、それを効率化するために自然言語AIを開発してみよう、と社内で話が上がったことがきっかけです。

それで自然言語AIの世界に興味を持たれたんですね。

前澤:そうですね。自然言語AIの場合、印刷物やWebニュース、論文だけじゃなく、音声や映像からも言語を収集できます。毎日の生活の中でどこにでも言語は存在するので、何がしたいのかさえ明確であれば、収集ツールも多様でアプリの種類も無限大なのでは?と思うと、どんどん興味がわいてきて。
エンジニア出身じゃないから自分の手でAIを作ることはできないけれど、プロジェクトマネージャーとして自然言語AIの開発に関わりたいと思いました。
それで、20年勤めた会社を退職し、その分野に力を入れている会社に入社しました。

20年勤めた会社からの転職はエネルギーや勇気がいることだったと思いますが、
前澤さんの行動を後押しした大きなきっかけとか、モチベーションはありましたか?

前澤:その時にやりたいことを成し遂げたい、という気持ちがもともと強い性格なので、その思いが勝つんですよね。
研究職の時も、同じ仕事ではなく会社がその時々で取り組みたいテーマに合わせて研究も変わっていたので、ちょっとずつやることの変化があり、それを楽しんでいました。

あと、タイミングというのも非常に重要ですね。
転職を決めた時は、子供が手を離れて高校生になるタイミングでもありました。「もう、お母さん好きに生きていいよね?」っていうスイッチを切り替えられたかなと思います。子供が小学生だったら転職は迷ったかもしれません。
やっぱり子供が小さいうちは、ある程度「そうせざるを得ない」と思っている部分も多かったです。学会発表で海外に行ける機会があっても、子供がいて諦めたこともありましたし、そうした部分でモヤモヤした気持ちはずっと続いていました。

モヤモヤした気持ちと育児でやるべきことがある中で、自分の気持ちにどう折り合いをつけていましたか?

前澤:全部を諦めたわけじゃなくて、どうしてもやりたいことがある時は工夫して乗り越えました。
私は社会人になってから、音響流(非線形超音波により引き起こされる現象の一つ)のことを勉強したくて博士号を取得しているんですが、その時は会社の上司に業務時間を調整できるか相談して、許可をもらってから、夫のことも頑張って説得しました。「今やらなきゃ私は人生後悔する。後悔する私を見たくないでしょ!」って。(笑)
ただし、家庭でやることはやるって決めてから大学院に行くようにしてました。

前澤さんの話を聞いていると、こうと決めたら周りを巻き込んで、どんどん突き進んでいくタイプですね。(笑)

前澤:それは言えてるかも。新卒で入社した会社にも根性で入りました。

根性!?内容が気になります。

前澤:順を追って話しますね。(笑)
私が大学3回生の時、経済産業省が医療関連の「マイクロマシンプロジェクト」というものを実施していたのですが、この研究がめちゃくちゃ面白くて、自分も関わりたい!と思ったんです。

「マイクロマシン」とはどういったものですか?

前澤:昔の映画や漫画で、「ミクロの決死圏」とか「攻殻機動隊」ってわかります?
ちっちゃいマシンに人間が入って体の中を巡るシーンがあるんですけど、マイクロマシンは簡単に言うとそのイメージです。
で、どうしてもこの研究に携わりたかったので、当時新潟から何度も上京して、マイクロマシンプロジェクトに参画していた会社に直接訪問したんです。
その度に「プロジェクトのリーダーに会わせてください!」ってお願いしました。(笑)

やはり前澤さんの行動力はすごい!プロジェクトリーダーの人とは会えたんですか?

前澤:もちろん最初は出直してこいって言われて、3度目でようやくプロジェクトの担当者に会わせてもらったんです。そこで「うちの入社試験に合格したら、このプロジェクトに入れてあげるよ」って言ってもらえて。無事入社試験に受かったので、プロジェクトに参加することができました。
なので、最初の会社には根性で入った感じなんですよね。

熱烈なアプローチに、担当者もついに折れたんですかね。

前澤:放っておくと何度も来られるって思ったのかも。(笑)

                                               

新卒で入社された会社では、何をされていたんですか?

前澤:医療応用に関連する研究に携わっていました。
20年以上は研究一筋で、その後にCTOシンクタンクとして技術戦略統括を5年ほど担当しました。

「医療応用に関連する研究」とは、どんな研究ですか?

前澤:ざっくり言うと、μTAS(マイクロタス)(※)を使って流体を分析するプロジェクトに携わったり、HIFU(ハイフ)と言う超音波技術を用いたガン治療の研究など、医療向けの先端技術に関連する研究開発もしていました。

※μTAS(マイクロタス):化学反応や生化学分析をガラス基板上に作成された微小な流路や空間で行う超小型の化学分析システム

ハイフといえば、美容医療などの分野でも見聞きすることがある技術ですね。

前澤:そうです。ハイフは体の外から超音波をあてて治療したい部分を焼くという技術です。
肉を焼くと小さくなるのと同じ原理で、ハイフをあてると体が引き締まると言われているので、美容医療の分野でもこの技術が活用されています。
当時の私の研究は、ハイフを体の外からではなく内視鏡の先端につけて、がん細胞の治療を行うにはどうしたらいいか、という研究でした。

内視鏡の先端というと、ものすごく小さいですよね。

前澤:そうですね。まず、超音波を発生させるためにはトランスデューサーという装置が必要ですが、内視鏡の先端はものすごく小さいのでトランスデューサーも小さくする必要が出てきます。
そうすると超音波によるパワーも小さくなってしまうので、がん細胞を焼くことができないんです。

で、結論、マイクロバブルを一緒に使うことにしました。
マイクロバブルは、名前の通り超微細なバブル(気泡)のことです。このマイクロバブルは、バブルになる前の液体状態の時に超音波をパンと当てると、ガス化してバブルになるという性質があります。
この性質を利用して、がん細胞の中に液体状態のマイクロバブルを入れてから超音波を当てるというアプローチを行いました。
つまり、がん細胞の中に入っているマイクロバブルが超音波によって膨らむと、がん細胞自体もパンっとなって殺すことができるんです。

超音波で焼くという発想自体を変えたんですね。
前澤さんの研究の話を聞いていると、永遠に深堀りしたくなりますね……。(笑)

前澤:喋ろうと思えばいくらでも喋れちゃいますよ。(笑)

学生の時から医療分野の技術や研究に興味があったんですか?

前澤:いえ、高校生の時は違う夢を抱いていました。ずーっとメカ屋になりたかったんです。

メカ屋?ということは、装置の設計とか機械を作る人のことですよね。

前澤:そうです。ちっちゃい頃からとにかくアニメのガンダムが大好きで、ずっと「ガンダムを作りたい!」と思っていました。それでメカ屋を志望していました。(笑)
それで高校を卒業する時、将来的にその分野を学ぶために長岡技術科学大学へ進学しました。

すごく可愛らしいというか、夢のある話から始まったんですね。

前澤:私は女子校だったんですが、当時、私以外に同じ分野に興味がある女子は一人もいなくて。
先生も「その分野に行きたいって言った生徒はお前が初めてだ」って驚いてました。

では、大学で機械技術系の分野を専門に学ばれたんですね。

前澤:はい。でも、ここで挫折が入るんです…..。
メカ屋って、当然ですが油にまみれる作業なんですよね。当時の私はサラダ油くらいしか知らなかったから(笑)、まずその油臭さに驚いてしまって。そこで「何夢見てたんだろう!」って気づきました。

まさに夢と現実、ですね……。

前澤:さらに壊滅的だったのが、手先が不器用だったこと。フライス盤実習っていう工作物を削る実習があるんですけど、「お前は手を切るから触るな!」って同級生からストップがかかるくらい手先が不器用で。それで、メカ屋とは別の道を歩むことに決めました。

                                                

これまでの経歴や仕事内容についてもお伺いできたところで、前澤さんのプライベートについてもお聞きしたいと思います。
前澤さんの趣味はありますか?

前澤:子供が小さい頃は家でできることが趣味だったので、よく映画を観たりしていました。
もともとは温泉に行くことが好きなので、川を掘ると温泉が出てくる場所とかにも行ってましたね。
あと、5年ほど前から合唱を始めました。タイミングを見つけて合唱祭に出たりしていて、それがすごく楽しいです。

合唱ですか。それは、合唱のコミュニティみたいなものがあるんですか?

前澤:そうです。いろんな年齢の方が参加していて、違う世代の人とコミュニケーションをとれるところが楽しいです。
私が住んでいる東京の日野市は合唱にゆかりがあって、日野市の七生小学校は10年連続でNHKコンクールに優勝しているんです!実は合唱が盛んな地域なんですよ。

合唱祭での1枚。センターで歌っているのは前澤さんです!

合唱が盛んな地域があるとは初耳でした!
前澤さんは歌うことがお好きなんですね。

前澤:大学生時代にバンドのボーカルをやっていました。技術系の大学で男子学生の数が多かったので、女子ボーカルはかなり貴重だったようです。
カラオケに行くことも大好きなので、今では年に2回くらい、娘たちと「10時間耐久カラオケ」をやっています。

10時間!さすがに疲れないですか?

前澤:3人で10時間だから、1人の持ち時間は3時間ちょっとだと思えば、意外と乗り切れますよ!
今となっては私よりも娘たちの方が前のめりで、カラオケ採点でも高得点を叩き出していて尊敬します。

娘さんが1歳前後の時に撮影された写真。癒される……。
この写真は、前澤さんの住む東京都日野市主催のフォトコンテストで金賞を取った奇跡の一枚だそうです。

                                                        

お客様から求められる機能の“最大公約数”を見極めることを大事にしていきたい

本日はインタビューを受けていただき、ありがとうございました!
前澤さんのマネジメントにおける考え方や、興味深い研究職時代のお話など、たくさん深掘りさせていただきました。

最後に、今後プロダクトをどんなふうにしていきたいか、目標をお聞かせください。

前澤:Ristのプロダクト「RPipe-Image」「Deep Counter」「LandingLens」が社会実装を果たすために、お客様から求められる機能の最大公約数を見極めて品質を担保することを大事にしていきたいと考えています。プロダクト開発部は、お客様それぞれの要望に合わせて開発する受託開発の部署ではないので、この機能は他のお客様にも使える機能なのだろうか?を吟味することが必要です。

あとは、作ったらすぐ出すというスピード重視ではなく、作る上での設計図も明確にした上でプロダクトを世に出したいです。例えば、ちょっとしたバグでも検査をしっかりしていれば防げたのに、知らないうちにそのバグが潜んでいて、発覚して不良品が大量に出たら責任が取れない。リスクは事前に潰した上で提供する、という落ち着いた方向性は持っておきたいです。

目標や方向性を守っていく上で、現状の課題はありますか?

前澤:やっぱり、言うのは簡単でも、実際にやるのは難しいことだと思っています。
AIはカスタム製品の要素が強いので、それをプロダクトにすると矛盾をはらむ部分も出てきます。
ただ、忘れてはいけないのは多くのお客様に喜んでほしいということ。
まだまだ思案中なことも多いですが、Ristの優秀なエンジニアの方たちが作ったプロダクトが社会でどんどん活躍できるように頑張っていきたいです。 

強い気持ちと行動力で、仕事と家庭の両立を乗り越えてきた前澤さん。
そんな前澤さんだからこそ言えることや経験談があり、非常に内容の濃いインタビューとなりました。

研究職時代のお話は全部紹介しきれませんでしたが、最新の医療研究に関するワクワクする研究内容ばかりでした。また別の機会で、Ristのメンバーにもたくさん話してほしいと思います!