第1回交流会 座談会レポート

2020/1/24(金) 第1回Rist主催企業交流会

 2020年最初のイベントとなった、第1回Rist主催企業交流会。オリンピック・イヤーとなる今年にふさわしく、講演や座談会を盛り込んだ、Ristの新たな試みです!

 参加者は、AI 関連の企業様とAIを導入した企業様、また導入を検討している企業様など。今回の異業種交流会で情報や意見を交換していただき、新たな出会いが生まれ、それぞれが良い方向へ発展していくことを願います。

初回からたくさんの方にお集まりいただきました

 講演会のゲストには、バックミラー国内シェアNo.1を誇る株式会社村上開明堂様をお招きし、鏡面の目視検査にRistの技術を導入するまで、また導入してから精度を飛躍的に向上させた実体験をお話いただきました。

 特別企画として、村上開明堂の中村様、橋ヶ谷様のお二人に加え、Rist創業者であり現顧問、現在は株式会社Plasmaの代表・遠野宏季、Rist代表・藤田亮による座談会を開催。AI導入までの道のりや、製造業・AI業界のこれから、求められる人材、そしてほかでは話せない(!?) 裏話まで、四者が赤裸々に語りました。今回はその様子を抜粋して一部をお届けさせていただきます。

Rist立ち上げから3ヶ月での導入検討という英断

(敬称略)

司会:村上開明堂様、RistのAI技術を導入していただき、現在に至るまでの道のりの中で、印象に残っている思い出はありますか?

中村:出会いは人材育成や企業開発などのサービスを提供する株式会社ワークハピネス様にご紹介いただいたことがきっかけです。仕様検討をしていく中で何度も打ち合わせするのですが、そのたびに事務所が大きくなっていって(笑)、発展されているのを感じていました。いつも遠野さんの斬新なアイデアに、刺激をもらっていましたね。

遠野:ありがとうございます。

中村:導入時は、Ristのメンバーで当時(現在も)大学生だった奥西さんとフランス人のパスカルさんがご担当で、少々戸惑いはありましたが(笑) 、最終的に使いやすいシステムをご提案していただいて、本当にありがとうございます。

遠野:、橋ヶ谷さん、中村さんとは、2016年8月にRistを立ち上げてからまだ3ヶ月目の11月に初めてお会いしました。その後数回お会いし、気に入ってくださったのでテストしてみると、既存のものに比べて非常にいい精度が出ました。そこで一度私が在籍していた大学がある京都でお話しましょうと。当時はまだDeep LearningでAIをやる人が先生も含め大学におらず、私はその1年以上前から自分でコードを書いて面白がっている、という一人でした。京都に新しく借りたオフィスとは呼べない状態の部屋に村上開明堂様をお招きし、オフィスを一応は見ていただきつつ、そこから徒歩2分の僕が暮らす部屋で打ち合わせを(笑)。

同時期に、中国のスマートフォンの大手企業様ともお取引していましたが、この企業様には、「トップが一番若かったから」という理由でRistを選んでいただきました。村上開明堂様も、新しいことをやるからにはブランドではなく、そういうところで選んでいただけたのかなと信じております。

橋ヶ谷:当時、東京のコミュニティで企業の社長をしておられる方4〜5人から、それぞれの困りごとの吸い上げをしてもらっていました。そのコミュニティの中で、我々が画像検査をしたい、という話をすると遠野さんが「私たちが一番自信あります、と」(笑)。

遠野:それこそ2016年の起業当初のことでしたが、その前から医療画像、CT、MRIの解析をやっていた経験がありました。当時、製造業にDeep Learningを導入するという発想があまりない時代でしたが、その経験から直感的に使えるという確信がありました。

導入では各社各様で異常の具合も違うし数も違う。「これはホコリなので大丈夫」といったような細かいところまで丁寧にやらなければいけなかったのですが、そこを二人三脚でやれてよかったなと言う風に思っています。

司会:製造業においてAI導入は現状、どういった状況でしょうか?

藤田:製造業でのAI導入事案で、一番多いのは外観検査。感覚的には3〜4年前には先進的な企業が取り組みを開始されていて、軒並みPoCを行なっていました。最近の傾向は、一つのラインでAI導入したことから課題が見え、課題解決のために手伝ってくれないかという案件が増えていますね。

どうにか成功させたい、というパッションがあれば

メーカーと現場は自然に連携する

司会: AIを製造業に導入し生産効率化を図っていく上で鍵となるのは人材だと思います。製造側にはどんな人材が必要で、どのように育成し、またどのように連携をとっていくべきですか?

遠野:今、AIビジネスの中ではRistのような開発サービス以外の需要として、企業様側への教育事業、オンラインコースやセミナーなどで社員さんへの教育サービスが盛り上がってきています。それはそれで良いですが、小さいプロジェクトをまず走らせてみることで、血肉になるような新しい知見などが生まれるのではとも思っています。

また、メーカーと現場の連携という点では、例えば今回の村上開明堂様も、Ristに丸投げで結果だけで判断されるというレベルだったら、ここまで前進できていなかったと思います。橋ヶ谷さんと中村さんが、「これをどうにか解決したいと」いうパッションをお持ちで、こける前に一歩踏み出したい、というところがあったから、実現した部分もあると思っています。どうにか成功させたいという思いがあれば、自然と連携していく流れになるのかなと。

だから、まずは「やってみる」と「面白そうと興味を持ってくれる人をメンバーに入れる」というこの2つことが大事かと思います。

現場の方にはアルゴリズムより、お作法を知っていてほしい

藤田:どんな人材をどんな風に育成していくべきかというお話ですが、製造現場の方は、AIのアルゴリズムの細かい話は正直知らなくていいと思っています。では何が必要かというと、“AIのお作法”です。AI案件を進める上で、「こういう風に学習して、こういう風に正答率を見ないといけない」というルールのようなものです。

一番典型的な例が(通常AIとデータで学習し、別のデータで判定して精度をみる)、学習データと判定データをきちんと分けなければいけないということ。これは一番基礎的なお作法です。双方が間接的に、または直接的に混ざっているとか、実際はAIが答えを盗み見てしまっていて、机上では精度99.9%なのに、実際に導入してみたら期待していた精度が出ない、ということがあります。これはアルゴリズム云々ではなく、AIのお作法の部分。こういったところは知る必要があると思います。

司会:村上開明堂様からも半歩踏み込んだご提案があったからこそ成功に至られたと思います。A Iに対しての学習に関して村上開明堂様でも話題に上りますか?

橋ヶ谷:そもそも遠野さんが仰ったように、「やってみよう」というところから始まっていて、我々は全くの素人でした。一緒になってやって下さり、お作法から覚えました。学習させるという一つの技術は我々でやっていきたいなと考えましたが、色々お作法を教わっていくと、覚えさせ方次第で悪くなってしまうということも分かってきて。だったら自分たちでやるにも、その結果が事前に分かるべきだよねと。そういうところまで会話ができるようになってきたのは、やはり我々の成長だったと思います。学ばせてもらったというのが大きかったですね。

中村:導入できた大きな要因としては、やはり “お作法”を理解しないといけない中で、本当に色々と細かく「AIってこんなところまでできるんだよ」と教えてもらったこと。導入していく中で、AIをうまく運用するためには、製造の方でその精度などを確認したりするシステムを作ってくれたということが大きいかなと思います。

司会:AIを実装していく段階で、まず人と協働するということもありますが、作り込んでいく段階での人と人との連携の仕方がすごく重要だと感じました。

アカデミアの強みは先生の経験や知識などの“人”の部分

司会:参加者の方からも、アカデミアとAIベンチャーの棲み分けについてご質問いただいています。

藤田:AIベンチャー企業は、お客様からお金をいただきAIのモデルを創るわけですが、限られた時間とお金の中では最短ルートで行きたい。ということで、まずは世の中にある有名なアルゴリズムを試します。それでうまくいくならそれがベスト、でもどうしてもうまくいかないとなった時に、独自のアルゴリズムを初めて検討します。

Ristでは案件ごとに開発をするため、製造現場に本来こんなアルゴリズムがあればいいんだろうなと思っているものの、まだ作っていないものもあります。現時点で世の中にない場合でも、中長期的にいずれ必要になるので、大学との共同研究でアルゴリズムの開発を進めていこうとしています。

遠野:例えばRistでも京都大学の鹿島先生に顧問になってもらっていますが、アカデミアの方とぜひ一緒にやりたいと思っています。アカデミアの皆さんはもう少し世界の最先端、高い視点から、「こういう技術がある・ない」だとか「こういう手法があるけどこういったメリット・デメリットがある」など基礎的なところの理解に主眼を置いていただきたい。

ですが、企業様から大学へ「今年一年で結果を出して欲しい」というようなご要望が届いていて、ベンチャー企業同様のビジネスモデルになっているなら、難しいところですね。どういう状況だと大学に頼んで、どういう状況だとRistみたいな会社に頼むのかと私も質問したいところです(笑)。

この話題で会場のお客様同士でも活発な議論がなされました。

遠野:アカデミアの強みは、技術以外の付加価値、先生の広い知識やご経験など“人”の部分。そこを付加価値として求めるかどうかというところで、ある種の差別化もできるのかなと考えています。

若手エンジニアとシニアエンジニアそれぞれを活かす組み合わせが重要

司会:Ristではベテランのエンジニアもいますが、優秀な学生のインターン生も多く働いてくれています。その点は私たちの強みでもありますよね。

遠野:例えば、35〜40のベテランエンジニアが、エネルギッシュにサーバーを書いていたりだとか、数式とかデータ、画像を書いてみたりだとかいうことをやるかというと、むしろ一歩が出づらい。20代の子の方が「そういうことね」と合理的にスピーディーにしてくれます。特に、今3カ月ごとに新しいアルゴリズムが出るというスピード感は、20代のエンジニアたちに向いているなと。一方で、システム開発やバグは出しちゃダメだという部分に関しては、シニアエンジニア、という具合に“上手い組み合わせ”が重要かなと感じています。

藤田:今の話は重要ですね。数年前にポッとAIが広がったのですが、それまでIT会社、ソフトウェア会社でプログラミングしている人からすると、それってITの延長線上にない技術。例えば新しいプログラミング言語が出たので習得するということには、皆さん覚悟はお持ちだと思います。しかし、ITの延長線上になく、AIはどちらかといえば数学とか統計学とかいう話が出てきます。「行列計算なんて20年やってないぞ」みたいな感じになる。そこにシフトすることは、すごく大変ですよね。

一方で大学生などは、最初からAIがブームになっていて、同じ時期にプログラミングも勉強している。プログラミングとAIを同時に勉強しているので、何ら違和感はないという人たちがどんどん出てきています。Ristではインターン生を常時募集していますが、少し前まで「学生だからちょっとプログラミングできたらいいかな」と期待する程度でした。今は「プログラミングもDeep Learningもやっています」「AIのモデル作ってやっています」という人たちが当たり前にいる。今後そういった学生たちが活躍すると思います。

司会:AIに対してとても意欲的な学生や、実はそればっかりやっている学生とか、社員が驚くような技術力を持った学生が面談に来ることがあるので、こちらも刺激を受けることが多いですよね。学生のエネルギッシュさと、私たちの培ってきたもので、新しく色々作っていければいいなと思っています。

最後に三社一言ずつ、今後の展望についてお聞かせください。

中村:私たちはスマート工業活動、ということを進めています。補足しますと、第4次産業革命でできたIoTやロボティクス、最先端技術を使って無人化するなど、本当に無駄を最小限に抑えて、ものづくりとして付加価値のあるものを追求していきたいと考えています。製造業が儲かるような世の中になっていければ。

藤田:少子高齢化が今の日本の一つの課題で、製造業、建設業、どの業界でも同じだと思いますが、そこから出てくる様々な課題をAIで解決したいと考えています。今は外観検査というところですが、当然検査以外にも、分業の保守とかもありますし、そもそも「ものをつくる」というところでも、作る人たちが高齢化してきていますし、10年スパンで見たらどうなっているかという視点で、匠の技のような部分をAI化しないといけない。今後10年スパンでどんどん解決するために、新しい事業やサービスを展開していきたいなと考えています。

遠野:私は株式会社Plasmaとして、今何をやっているかというと、最近ニュースや新聞にちょくちょく出てしまっているのですが、「月に20万円で私生活の動画を全部売買します」という[exograph]という社会実験です。別にのぞきが趣味ではないですが(笑)。皆さんやRistと同じように社会をよくしていきたいという想いの中で、AIの技術が徐々に成熟してきていると。多くの人が使えるようになった時の、じゃあデータをどうやってとるか、まあ製造業もそうですが、おそらく中国も始めとして行動データも集まっていく時の社会の在り方だとか、この日本でそれやれるかというところの議論を、耕す目的でやっています。

ですがそれ自体はこの1月末で終えて、それを踏まえた上で……、すみません、決まっていない!(笑) でも、社会を良くするために何かしら次の一手を模索しております。乞うご期待です。

司会:皆様の課題もそうですし、私たちももちろん日々課題にぶつかることがありますので、今後もこういった交流会を通して議論を重ねながら、皆様と一緒に成長していけたらなと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 参加者からの質問も活発で、また参加者同士の情報交換の場面もあり、最後は時間切れになるほど座談会は盛り上がりました。参加された皆様に、今後活かせる大きな収穫を感じていただければ幸いです。

 Ristは今後も交流会の開催を予定しています。オフラインの場だからこそできる質問、話せるエピソードは、交流会ならでは。発言するのが苦手な方は匿名で質問できるクラウドサービス「sli.do」も利用できるので、ぜひお気軽に足をお運びください!